2012年11月25日 藤本順平先生咬合セミナー

理想的な噛み合わせとは!?

かなり難しい内容なのですが、少しでもわかりやすくまとめたつもりです。ブログも併せてご覧ください。

歯科医にとって咬み合わせ(咬合―こうごう)の理解は非常に重要である。咬み合わせの診断は診療の基礎となる部分だが、未だ十分な理解が得られているとは言い難い。その中で、口を閉じたときに下あご(顆頭)は顎関節の中でとのような位置にあるべきかというテーマについてまず論じたい。

Ⅰ:頭蓋骨に対して下あごがとる重要な位置があり、

① 中心咬合位 Centric Oclusion Position

② 中心位 Centric Relation Position と呼ばれる。

中心咬合位は、上下の歯ががっちり咬んだ時の頭の骨に対する下あごの位置 (上下顎の歯牙が咬頭かん合した際の下顎顆頭の顎関節か内における位置) 中心位は、あごの関節の中で、下あごが頭の骨に対して、最も上方にある位置―歯は無関係。(骨と靭帯によって支えられた、顆頭の関節か最上方位で、関節円板を介して前方に力のかかった状態) 最上方位でかつ前方への力のかかった状態が好ましいという考え方(Dawson)が有力である。その根拠は関節かの前壁を構成する部分(関節結節後方斜面―エミネンシア)が骨壁も厚く耐圧性に優れ、またせんい性軟骨で再生能力も高いからである。また、この部分は生後2-3歳頃、本格的な咀嚼が始まる前に急速な発育をとげること、口を閉じる筋肉群の力の方向は全て前上方に向かうということからも、理解しやすい。 食べ物を咬む運動(咀嚼運動)中に、下あごが本来閉じようとする位置に歯が並んでいない場合、つまり一部の歯が先にあたり(咬合干渉)、その歯のためにずれて顎が閉じる場合(中心位と中心咬合位の間にずれがある場合)、または下あごの食べ物をすりつぶす横への動き(偏心運動)で咬合干渉がある場合、顎関節症の主たる症状の痛みがおきやすいので、頭の骨に対する下あごの前後的位置の決定は重要である。 歯の咬み合わせが調和している状態では、中心位と中心咬合位は一致するのである。これが、咬み合わせ治療の目的である。 従って、下あごが頭の骨に対する理想的な位置は中心位である。

次に、歯に与える理想的な咬み合わせを考えてみる。

Ⅱ:Mutually Protected Occlusion(直訳;お互いに保護する咬み合わせ)

歯の山と谷が咬み合った状態では、(咬頭かん合)臼歯が前歯を保護(離開咬合―disclusion、つまり前歯は咬んでおらず、少し隙間のある状態) 前への運動では前歯(切歯)が犬歯・臼歯を保護 横への運動では犬歯が前歯と臼歯を保護 わかりやすく言い換えると、咬もうとしているところ以外でも歯があたると(例えば右で咬んでいるときに、左でつっかかるー咬合干渉)、その歯や顎関節に異常な力がかかり、よくないので、下あごの動き方次第で、わざと歯があたらないような咬み合わせを作る。

ここまで、Ⅰ:中心位、Ⅱ:Mutually Protected Occlusion の重要性について述べてきた。

さらに、この二つに関連して忘れてはならないのが、

Ⅲ:アンテリアガイダンス である。

下の前歯の、上の前歯に対する動的関係をアンテリアガイダンスという。 つまり、上の前歯のうらの斜面(口蓋側)に下の前歯があたることで、下あごの動きに制限ができ、最終的に臼歯も咬み合って止まり、顎や臼歯に異常な力がかからない。 従って、臼歯の保護・臼歯のつめもの(補綴物)の保護・顎関節の保護・それに関わる神経と筋肉の保護、という意味でアンテリアガイダンスは重要である。 逆に、アンテリアガイダンスが失われると、強い咬む力によって歯が磨り減って(磨耗による咬合接触点の小面化)さらに強い力が加わり(咬合面の強い干渉)、いずれ歯の根っこが折れて根の付近に膿ができてしまうために抜歯となる。(歯根破折による膿瘍形成)

90歳前後の人の咬み合わせを調べた研究では、下あごが上よりも出ている反対咬合の人はいなかった。これはアンテリアガイダンスの重要性を物語っている。つまり、アンテリアガイダンスのない人は、上に述べたような順序で、歯を失っていき、それがひいては寿命にまで影響しているのではないかという推測ができる。

結論:理想的な咬み合わせに必要なことは

① 中心位と中心咬合位の一致

② アンテリアガイダンスの確立

③ 咬合干渉の除去

である。