2013年4月28・29日 藤本研修会エンドコース(第1回)

歯の神経の治療に関する学問(歯内療法学―endodontics)の目的は、歯の根に接している骨までばい菌が達するのを防ぐ・またそれを治療することです(根尖性歯周炎―apical periodontitis)。歯がどれくらい長く口の中で使えるかというこを歯の長期予後(よご)といいます。せっかく、時間とお金をかけて神経の治療をしても、その後の被せ物までいかないと意味がありません。また、すぐに歯が割れて抜かなければいけないというのも、意味がありません。

そこで歯が長く口の中で残せるのか予測するときに大切な因子があります。

① 被せ物の質

あまり一般的に知られていないかもしれませんが、唾液は口の健康に欠かせない一方で、口の中に住んでいるばい菌もたくさん運んでいます。神経の治療は、神経の入っていた空洞にばい菌をいれないように治療するということが必須です。それはラバーダムを使用したり、滅菌された器具を使用したりするということと同じで、治療の基本ルールです。こうして細心の注意を払って神経の治療を完了しても、その上の被せ物がスカスカであったら、どうでしょう。唾液に運ばれて、再び歯の中にばい菌が入って感染してしまいます。今度は神経がないので、痛みもなく、危険信号がないうちにあごの骨に侵入して、骨を溶かしてしまうのです。今度は気づくのに遅れて、歯の根のさきがかなり溶けてしまってから鈍い痛みでようやく気づくということになります。ですから、被せ物と歯の隙間ができるだけないように精密な被せ物を入れて、ぴっちり封鎖するということがとても重要です。 歯の神経を残す治療にしても同様で、せっかくもう一回神経を生かすチャンスが与えられたのに上から唾液が入ってきては、すぐに虫歯になってしまいます。

② 治療が終わったときに、その歯の残った量

神経の治療で、ばい菌に感染した虫歯の部分は慎重に取り除いていきます。そして、その後、土台(コア)と被せ物や詰め物などが簡単にとれないように、歯の形を整えていきます。治療が終わったとき、患者様が目にする歯の姿は、色は違えど以前と同じ形に見えます。しかし、実際の中味をみてみると、歯自体の量はだいぶ減ってしまっています。こうしてばい菌を取り除く治療をしていくたびに、歯の量は減って、それは歯の強度が落ちていくということになります。強度が落ちても咬む力は同じなので、歯が割れるということが起こります。縦にまっすぐ割れてしまうと、抜歯となります。ですから、最初に、治療する歯が最終的にどこまで小さく削ることになり、割れやすくなるか、ということを予測して、計画をたてていくことが重要です。

③ 歯周病の程度

歯周病がひどいと抜歯になることもあります。また歯の周り全体が歯周病で、骨がとけている上に、さらに歯の根のさきの骨が、豆の大きさぐらい溶けてしまうこともあります。これは、歯の中を通ってばい菌が骨をとかすのではなく(虫歯など)歯周病によって、歯のまわりから根のさきの骨を部分的に溶かすという経路です。いずれにしても、歯周病の治療が不可欠です。

④ 根のさきの膿の状態(根尖性歯周炎)

根のさきの骨がとけて膿をもった状態で、病気が発見されると、その大きさによって治る時間が異なります。また治療方法も歯の中からばい菌を取り除くのか外から手術して取り除くのか、と異なります。一回骨が大きく溶けると治療が難しくなってしまいます。

では、神経の治療の成功率はどれくらいでしょうか。

世界で研究されている報告をまとめると、

根のさきが問題なく、初めて治療される歯は90%

根のさきの骨がとけていて、初めて治療される歯は80%

根のさきに問題がなく、再び治療される歯は70%

根のさきの骨がとけていて、再び治療される歯は50%

顕微鏡による外科手術(歯の根を一部切除する)は93% です。

根のさきの骨がとけているということと、一度治療がされている歯というのは難しい状態にあるということがお分かりいただけるでしょう。ですから、最初に神経の治療をするときに、ばい菌をいれないように治療を成功させるということが大切です。

今まで見てきたことを治療の前に考えることは、患者様がより予知性の高い治療を受けるためにとても重要です。

ところで、歯の神経が生きているかということは血流の状態によって決まります。しかし、一つの歯の血流がどの程度か測るということは今のところできません。そのために歯の神経の診査を色々行い推測して、治療方法を決定していきます。

神経をとると歯が弱くなると聞いたことがある方がいるかもしれませんが、これは研究によって否定されています。神経をとるに至るまでの治療の繰り返しによって歯が小さく量が減ってしまっているのが原因です。歯自体の物理的な強度は落ちません。歯が弱くなるというのは実は、神経をとることで歯と歯根膜の反射が鈍くなり、必要以上の強い力でかんでしまい、歯を壊しやすくしてしまうということなのです。

今回の講義では、ばい菌を入れない処置の実際や、神経の空洞の感染した部分のとり方や器具の紹介、洗浄の方法、薬の使い方などに加え、最も大切な治療の基礎となる考え方を研究に基づき分かりやすく教えていただきました。 (第二回へ続く)